蓄電池の赤本の、吉永健之です。
太陽光発電の2019年問題の解決策として、蓄電池の設置は、とても有効な手段です。
そこで今回は、2019年11月以降、太陽光発電の固定買取期間が終了するご家庭に向けて、蓄電池を設置した場合のメリットとデメリットについて、取り上げたいと思います。
目次
1.メリット
①買取価格低下の影響を軽減できる
固定買取期間終了により、48円/kWhから10~12円/kWhと4分の1以下程度に低下する見通し
蓄電池設置の最大のメリットと言えるのが、固定買い取り価格の影響を軽減できることです
固定買取期間終了後に、蓄電池を設置して自家消費に移行した場合と、売電を続けた場合の収益にどのような違いがあるのでしょうか?
計算方法については、電力メニューの選択や、電気の使用状況によって計算方法は細かく分かれるのですが、ここでは分かりやすくするため、単純化してご説明します。
蓄電池を設置した場合と設置しない場合について、おおまかな収支の違いを見ていただければと思います。
2009年に太陽光発電を設置し、年間2400kWh(月平均200kWh)の、余剰電力を売電していた家庭を例にとってみます。
このご家庭の、固定買取期間における年間の売電収入は
2400kWh×48円/kWh=11万5200円です。
ここで、蓄電池を設置せずに売電を続けた場合の売電収入を見てみます。
売電価格を、現在予測されている金額で最も有力である11円/kWhとすると
2400kWh×11円/kWh=2万6400円です。
固定買取期間前との収入の差は
11万5200円-2万6400円=8万8800円となり
77%の収入減となります。
次に、蓄電池を購入して年間2400kWhの余剰電力を、自家消費した場合を見てみましょう。
蓄電池には、後のデメリットでも取り上げるのですが、充電と放電の時に「損失」が発生するので、2400kW全てを自家消費で使えるわけではありません。
蓄電池の損失を5%(蓄電池の効率を95%)として計算すると(※1)
(※1)蓄電池の効率は「太陽光発電システムの設計と施工」P68、69 蓄電池システムの設計の容量計算(例)のリチウムイオン電池の事例を使用
2400kWh×95%=2280kWh が実際に使える電力量です。
この2280kWhを全部自家消費した場合、削減できる電気代はいくらになるのでしょうか?
このご家庭が、東京電力さんの「従量電灯B」で契約していた場合の電気代は
月々の最初の120kWhまでが19円52銭/kWhです。
となります。
蓄電池に貯めて使う年間消費量が効率を考慮すると2280kWhなので、毎月にすると
2280kWh÷12ヶ月=190kWh となります
毎月蓄電池から使う190kwhのうち最初の120kWhが19円52銭、残りの70kWhが26円なので、年間に換算すると
120kWh×12ヶ月×19.52円+70kWh×12ヶ月×26円=4万9948円です。
4万9948円分の電気代が節約できるので、収入と見なすことができます。
固定買取期間の、11万5200円に比べると、57%の収入減となりますが、売電を続けた場合の2万6400円の1.9倍の収入になります。
実際の収支は、固定買取期間終了後の実際の買い取り価格や、選択する電気料金プランによって変わってきます。
おおまかな収支としては、蓄電池を設置した場合でも、固定買取期間よりは収入(節減効果)は減ります。
しかし蓄電池を設置することで、売電を続けた場合に比較して多くの収入(節減効果)を得られることが分かります。
さらに蓄電池を設置した家庭向けに、お得な料金プランを設定する動きも始まっています。
東京電力(株)さんのグループ会社のTRENDE(株)さんは、住宅用蓄電池を手がける伊藤忠商事さんなどと共同で、蓄電池を設置したご家庭向けにお得な料金プランを発表しました。
スマートジャパン記事:狙うは卒FITの住宅太陽光、蓄電池の月額運用サービス登場(2018年10月26日)
こうした、蓄電池を設置することを前提とした料金プランが充実することで、各家庭の電気使用状況に応じた、きめ細かいプランが生まれてくることが予想されます。
そして、蓄電池の設置を前提としたお得なプランを選択することで、光熱費節減効果はさらに大きくなることが期待出来ます。
②災害による長期停電時に、電気が使える
近年、災害による大規模停電や長期停電が相次いで発生しています。
今年9月に起きた、北海道での大規模停電が記憶に新しい方も多いでしょう。
そんな長期停電時に、ご家庭の電化製品の内の一部でも使用できれば、大きな助けになります。
長期停電のリスクは、病気の方や高齢の方、小さな子供さんがいる家庭にとっては、切実な問題です。
ご自宅でパソコン等を使って仕事をされる、個人事業主の方にとっても、停電が長引けば長引くほど、損失は大きくなります。
そして、ご自宅が店舗を兼ねていて、飲食店など「冷蔵庫」が必要不可欠な事業をされている方にとっては、長期停電は死活問題にもなりかねません。
事実、9月の北海道大規模停電では、「冷蔵庫」を必要とする酪農業や水産業に、大きな打撃を与えました。
蓄電池は、こうした長期停電に伴う様々なリスク回避への有効な手段としても、大きなメリットがあります。
③電気料金値上げの影響を軽減できる
蓄電池を設置して自家消費をするということは、電気を「自給自足」することです。
昼間は、太陽光発電で発電した電気を使い、余った電気を蓄電池に貯めます。
そして夜間などの発電しない時間は、蓄電池に貯めた電気を使い、足りない電気を電力会社から購入します。
太陽光発電と蓄電池の容量が大きければ、電気の自給率は高くなります。
そして、電気の自給率が高ければ高いほど、今後予想される電気料金の値上げの家計への影響が小さくなります。
電気料金の値上げの主な要因は、次の2つです。
1.火力発電の燃料費の高騰
資源エネルギー庁が発表した「エネルギー白書2018」によると、2016年時点で、火力発電は全体の83.8%を占めています。
火力発電の燃料の内訳は、LNG(天然ガス)が42.1%、石炭が32.3%、石油等が9.3%ですが、いずれも大部分を海外からの輸入に依存しています。
このことから、今後の国際情勢により燃料価格が高騰した場合、電気料金の値上げに繋がってきます。
2.再生可能エネルギー発電促進賦課金の値上げ
再生可能エネルギー発電促進賦課金(略称:再エネ発電賦課金)は、2012年に開始した制度です。
この制度の背景には、2011年に発生した東日本大震災による原発事故と、それに伴う電力危機により太陽光発電が脚光を浴び、急激に増加し始めたことがあります。
太陽光発電が増加するに伴い、その電力を電気料金よりもはるかに高い値段で買い取る、電力会社の経費負担が大きくなります。
そこで電力会社が、太陽光発電を始めとする再生可能エネルギー由来の電力を買い取るためにかかる経費を、電気使用者が電気料金の一部として負担する「再エネ発電賦課金」制度が始まりました。
再エネ発電賦課金の金額は、2012年の開始時点では、0.22円/kWhですが、年を追うごとに増加し、2018年現在では2.90円/kWhと13倍にまで値上がりしています。※
※新電力ネット:再エネ発電賦課金の推移より
再エネ発電賦課金の値上がりは、今後も再生可能エネルギーの拡大に伴って、続いていくと予測されます。
そこで、蓄電池を設置することで、電気料金の値上げに伴う経済負担を、軽減することが出来ます。
これらの、今後予想される電気料金の値上げへの対策としても、蓄電池は有効です。
④補助金を受けられる
固定買取期間終了後に、蓄電池の設置して自家消費することは、政府も奨励しているので、多くの自治体で蓄電池の補助金制度を設けています。
政府が、蓄電池の設置による自家消費を奨励する主な理由は、次の2つと思われます。
1.再エネ賦課金の低減
前述のとおり、太陽光発電による売電の増加により、再エネ賦課金が増加の一途をたどっています。
そこで、蓄電池による自家消費という新たな選択肢を推進することで、売電を減らし再エネ賦課金の軽減が期待できます。
2.電力系統の安定化
太陽光発電の増加に伴い、電力系統に流れ込む不安定な電源が増え、電力会社側の出力調整の負担が増えていることがあります。
今後も、太陽光発電が増加すると、出力調整能力の限界を超えてしまう恐れがあります。
そこで、家庭に設置した蓄電池を、新たな「調整役」とすることで調整能力を補うことが期待されます。
電力の自家消費を推進する動きは、今後さらに活発化することが予測されます。
こうした補助金制度をうまく活用することで、初期投資額を減らして費用回収効果を高めることができます。
⑤出力制御の影響を受けない
出力制御とは、晴天時などに太陽光発電などの再生可能エネルギー由来の電力が増えすぎて、電力会社の調整能力の限界を超えた場合に、一時的にその電力の受け入れを制限することです。
出力制御の対象になると、売電が制限されるので、収入が減るデメリットがあります。
現在、日本の電力供給システムは、大きく分けて10個の系統に分かれています。
出力制御が発生しやすいのは、北海道や九州、四国の小さな電力系統です。
太陽光発電の増加に従い、電力会社による出力調整の負担が増えていきます。
そして出力調整能力の限界に達すると、出力制御が発生します。
そしてついに、今年10月12日と13日に九州電力管内で、離島以外では国内初となる出力制御が行われました。
出力制御の対象には優先順位があり、10kW以下の家庭用太陽光発電は、ずっと下位にあるので今のところ対象となる心配ありません。
参考:2017年3月 資源エネルギー庁発表「出力制御の公平性の確保に係る指針」
しかし、今後太陽光発電が増加すれば、小さな電力系統では出力制御の可能性も、ありえるかもしれません。
蓄電池を設置することは、将来の出力制御への備えというメリットがあります。
そして、再生可能エネルギーを推進する企業を、サポートすることにもつながります。
今年10月に、九州で実施された出力制御では、優先順位が高い産業用の大規模太陽光発電が対象となりました。
出力制御による、産業用の大規模太陽光発電を運用する企業への影響は少なくありません。
出力制御が頻繁に行われるようになれば、日本の日本の再生可能エネルギー普及に貢献してきた、高い志を持つ企業の経営に悪影響を及ぼしかねません。
そこで、蓄電池を設置するご家庭が増えることで、蓄電池が「電力の調整役」として働いてくれるので出力制御のリスクは軽減されます。
蓄電池を設置することは、出力制御対策と同時に再生可能エネルギーを推進する企業を、応援することにもつながります。
2.デメリット
①初期投資額が大きいので回収に時間がかかる
蓄電池の性能の向上と共に、低価格化は目覚ましい早さで進んでいます。
しかし、安くなったとは言え現在の価格帯は100万円から200万円のものが多く、小型自動車を購入するのと同等の大きな買い物となります。
蓄電池は、太陽光発電と比較すると経済的メリットは小さいため、長期的なスパンで費用を回収することになります。
蓄電池の価格は、今後の技術革新と普及拡大に伴い、さらに下がることが期待できます。
経済的に余裕がない場合は、固定買取期間終了後も売電を続けながら時期を待ち、蓄電池の値段が下がってから購入するという選択肢も考えられます。
②パワーコンディショナーの交換が必要
パワーコンディショナーとは、太陽光発電で発電した直流電圧を、交流電圧にするための、変換器です。
太陽光パネルで発電した電気は直流なので、そのままでは電化製品を使えません。
パワーコンディショナーは、直流電圧を100V、50Hz又は60Hzの交流に変換する、重要な役割を担っています。
しかし、従来のパワーコンディショナーでは、蓄電池を併設した場合、使い切れない電気を蓄電池へ振り分けることが出来ません。
そこで、使い切れない電気余った電気を、蓄電池に分配する機能を持った、パワーコンディショナーに交換する必要があります。
この、パワーコンディショナーの交換費用が、おおむね20万円程度かかります。
太陽光発電を設置するときに、将来の蓄電池の増設を見込んで、蓄電池に対応したパワーコンディショナーを設置している場合は、交換の必要はありません。
③充電と放電による損失がある
蓄電池には、充電時と放電時に2回電力の変換に伴う損失が発生します。
日中に太陽光発電で、作られる電気は「直流」ですが、太陽光の日射量によって電圧が変動して不安定なので、このまま蓄電池に充電することはできません。
住宅用蓄電池の主流となるリチウムイオン電池は、1セル当たり4.2Vで充電する必要があります。
この電圧を超えると、破裂などの事故につながる恐れがあります。
そこで、不安定な直流電圧を、DC/DCコンバーターという変換器で、4.2V(1セル当たり)の安定した電圧にして、蓄電池に充電します。
この時、1回目の損失が発生します。
そして、夜間などに電気を使う時は、放電を行いますが、放電電圧は3.6V(1セル当たり)の直流なので、このままでは電化製品は使えません、
そこで、DC/ACインバーターという変換期で「直流」から、100V、50Hz又は60Hzの「交流」に変換します。
この時、2回目の損失が発生します。
・充電時:直流(不安定)→直流(安定) 1回目の損失発生
・放電時:直流(安定) →交流(安定) 2回目の損失発生
ですので、これまで売電していた電気を蓄電池に貯めて使う場合は、2回の変換による損失分だけ、使える電気が少なくなります。
例えば、充電時の損失が2%(効率98%)、放電時の損失が2%(効率98%)の場合
効率=98%×98%=96% となり
損失は4%となります。
仮に、100kWhの余った電気を、蓄電池に貯めて使う場合、使える電力は96kWhとなり、4kwh少なくなります。
蓄電池の損失が大きければ大きいほど、使える電気は少なくなります。
蓄電池選びをする上で、損失が大きいほどはデメリットが増えるので、効率の良い蓄電池を選ぶことは、重要な要素の一つです。
④設置スペースが必要
蓄電池は、容量に比例して大きさと重量が増えるので設置場所を選ぶ必要があります。
しかし、技術革新により年々小型化が進んでいるため、大容量のものでもエアコンの室外機程度とコンパクト化しているので、それほど問題にはならないでしょう。
設置場所は、大きく分けて屋外と屋内に分かれます。
屋内の場合は、高温になったり湿気が多い場所を避ける必要があります。
屋外の場合は、直射日光を避け、雨が直接当たらないようにする必要があります。
メーカーによって、設置できない場所に違いがあるので、詳細は購入前にあらかじめ確認する必要があります。
⑤寿命がある
蓄電池は、充電と放電を繰り返す内に電極が徐々に劣化して、容量(使える電気の量)が低下していきます。
ですので蓄電池の寿命は、使用年数ではなく充放電回数によって決まります。
新品の時の60%程度になった時点を、寿命とする場合が多いようです。
多くのメーカーでは、蓄電池の10年保証をしています。
最低でも10年間は寿命を保証することなので、寿命は10年以上になります。
この保証年数は、通常の使用で予想される充放電回数から、計算で割出されたものです。
ですので、実際の使用状況によっては、短くなったり長くなったりする場合があります。
保証年数前に寿命を迎えた場合に、無償で交換を行うメーカーさんもあるようです。
蓄電池選びをする上では、サポート体制の充実したメーカーを選ぶことが大切です。
そして、保証期間内に初期投資額を回収できるかどうかが、蓄電池選びをする上で重要な要素となります
まとめ
以上、これまで蓄電池のメリットとデメリットについて、要点をまとめました。
蓄電池を設置した場合のメリットとデメリットについて、おおまかな全体像を見ていただき、蓄電池の購入に当たっての判断材料にしていただければ幸いです。
そして各ご家庭が、最適な蓄電池選びをされると同時に、再生可能エネルギーの普及にもつながっていけばと思います。
蓄電池選びをする上では、太陽光パネルの発電状況や電気の使用状況の他、今回見てきたメリットやデメリットなど、多くの要素が関わってきます。
そうした多くの要素を考慮して、デメリットを最小限におさえメリットを最大限にする蓄電池選びをしていただくためにも、それぞれの項目について今後の記事でさらに深く掘り下げていきたいと思います。
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