蓄電池の赤本の吉永健之です。
蓄電池の経済効果を高めるためには、太陽光発電の故障を防ぎ、長期にわたって安定して発電することが重要です。
今年2019年以降、太陽光発電の設置から10年を迎えるご家庭が増えていく中で、経年劣化による故障を防ぐためには、今後ますますメンテナンスの重要性が高まってくることが予想されます。
一方で、住宅用の太陽光発電は、産業用と比較してメンテナンスが立ち遅れており、故障が発生しているのも事実です。
さらに故障や不具合は、初期の段階では分かりにくい場合が多く、気付かずに放置していると、火災に発展する恐れもあります。
事実、2008年3月から2017年11月までの9年間で、住宅用太陽光発電システムから発生した火災等(火災、発火、発煙、過熱等)は、127件報告されています。
そこで今回は、太陽光発電の火災原因について、先月1月28日に消費者庁が設置した、消費者安全委員会によって発表された調査結果を解説しながら、メンテナンスの重要性について取り上げたいと思います。
目次
前述のとおり、2008年から2017年までの9年間で、住宅用太陽光発電システムから発生した火災等は、127件あります。
この127件のうち消費者安全委員会の調査対象となったのは、先行して独立行政法人製品評価技術基盤機構(以下、NITE)が調査した事故のうち、調査中の事故と原因が特定できなかった事故を除いた72件です。
つまり、NITEの調査により原因が特定出来た72件の事故を、さらに深掘りして調査したと言えます。
調査報告書の本文は、155ページに及びます。
→調査報告書の本文のPDFファイルはコチラ
→調査報告書の本文を12ページに要約した概要のPDFファイルはコチラ
今回の記事では、報告書のうち消費者安全委員会が重点的に調査を行った、「太陽光モジュール」および「ケーブル」から発生した13件を中心に取り上げたいと思います。
調査対象となった72件の内訳
今回、消費者安全委員会の調査対象となった72件の火災の内訳は、大きく2つに分類されます。
1.パワーコンディショナ又は接続箱から発生した火災事故等
パワーコンディショナ又は接続箱から発生した事例は、72件中59件と全体の8割以上を占めています。
推定された原因は、多湿場所など機器の仕様に適していない場所に設置したことによる絶縁不良(破壊)・トラッキングと、入出力端子部での接触不良です。
これらの事例の多くは、最初の施工段階で適切な工事を行っていれば、防げたと言えるでしょう。
2.太陽光モジュール又はケーブルから発生した火災事故等
太陽光モジュール又はケーブルから発生した事例は、72件中13件と全体の2割以下です。
原因は、モジュールからの発火の場合が配線接続部又はバイパス回路の不具合で、ケーブルからの発火が施工不良やコネクタ緩みなどです。
この事例の発生件数は、全体から見るとごく小数です。
しかし、パワーコンディショナ又は接続箱や接続箱が、金属筐体で覆われて家屋から隔絶されているのに対して、太陽光モジュールとケーブルは、屋根に直接接しているため、屋根材へ延焼する恐れがあり、影響は大きいと言えます。
事実、13件の内6件が、屋根材(野地板)への延焼が確認されました。
そこで、消費者安全委員会では、太陽光モジュール又はケーブルから発生した13件を重点的に調査しています。
太陽光モジュール又はケーブルから発生した13件の内訳
消費者安全委員会では、太陽光モジュールとケーブルが原因の13件について、屋根(野地板)への延焼の有無と、太陽光発電モジュールの設置方式との因果関係を調べました。
その結果、太陽光モジュールと屋根(野地板)間の、不燃物の有無が大きく関係していることが分かりました。
下に、消費者安全委員会が発表した報告書から引用した、太陽光発電モジュールの設置方式のイメージ図を示します。
太陽光発電モジュールの設置方式イメージ図
出典 消費者安全委員会 2019年1月28日
消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書【概要】
住宅用太陽光発電システムから発生した火災事故等
上図のとおり、太陽光パネルの屋根への設置方式は、大きく4つに分類されます。
今回の調査で、火災が発生したもののうち、屋根(野地板)への延焼に至ったのは、4つのタイプのうちの、右下の「鋼板等なし型」です。
「鋼板等なし型」と他の3タイプとの大きな違いは、屋根と太陽光パネルの間に「不燃材料」がないという点です。
他の3つのタイプは、「不燃材料」によって発火が太陽光モジュール内に収まったのに対し、「鋼板等なし型」は、「不燃材料」で屋根が守られていないため、延焼したと推測されます。
そのため、消費者庁では「鋼板等なし型」の太陽光発電ユーザーさんに対して、モジュールの設置方式を変更するか、それが難しい場合は応急点検を実施するように呼びかけています。
太陽光発電の不具合は発電量低下につながる
火災を含めた太陽光発電の故障・不具合は、ユーザーさんに多くの不利益をもたらします。
もし、火災が発生すれば延焼が起きなかったとしても、発電ができなくなるため売電収入がゼロになったり、蓄電池への充電ができなくなります。
火災に発展しない小さな故障であっても、発電量の低下を招く場合があります。
小さな故障でも、気付かずに放置していると発電量の低下が継続して、年数を重ねると大きな損失となります。
言い換えれば、小さな故障の内に気付くことが出来れば、火災を防ぐことはもちろん、発電量の低下も抑えることができます。
そして小さな故障の段階で修理を行えば、修理費用も少なく抑えられます。
故障を未然に防ぐための有効な手段として、日常的な点検を含めたメンテナンスがあります。
メンテナンスで防げる太陽光発電の故障
消費者安全委員会の報告書によると、太陽光発電ユーザーさんへのアンケートでは、7割がメンテナンス未実施であることが判明しました。
今年の11月には、2009年に固定買取を開始した設置した家庭用太陽光発電設備が、10年目を迎えます。
固定買取期間を終える10年目以降、経年劣化による故障や不具合を未然に防ぐためにも、太陽光発電のメンテナンスは、ますます重要性が高まってきます。
太陽光発電の故障や不具合というと、電気関連の専門的なイメージがありますが、実は「汚れ」からも故障に発展する場合があります。
そこで、不具合の分かりやすい例として、一番初期段階の「太陽光パネルの汚れ」から発展する場合を、例にとってみたいと思います。
太陽光パネルの一部(太陽光セル)が汚れて発電量が落ちると、日陰になった時と同様に、そのパネルは「抵抗」となり、他の太陽光パネルで発電した全電圧がかかります。
そうなると、「抵抗」となったパネルが発熱し、故障や火災の原因になりかねません。
そこで、太陽光パネルの一部が日陰になったり汚れるなどの、一時的な「抵抗化」を防ぐ安全装置として「バイパスダイオード」が設置されています。
バイパスダイオードの回路図の例
出典:太陽光発電システムの設計と施工 一般社団法人 太陽光発電協会編 (株)オーム社発行
上図のように、電流は「バイパスダイオード」を迂回することで、日陰となった太陽光パネルは守られます。
しかし、バイパスダイオードによる電流の迂回は、あくまで一時的な日陰などを想定したもので、「長期にわたるパネルの抵抗化」には対応していません。
太陽光パネルの汚れを放置していると、長期間電流が流れることによりバイパスダイオードに負担がかかり、故障につながりかねません。
事実、今回の調査報告書では、バイパスダイオードを含むバイパス回路が原因の発火が確認されています。
このように、太陽光パネルの汚れ一つをとっても、放置しておくと故障に発展しかねない悪影響を及ぼします。
ユーザーさんとメンテナンス業者さんの協力体制による、メンテナンスの仕組み作りが重要
太陽光パネルは、決してメンテナンスフリーではなく、故障を未然に防ぐためには、常に状態に気を配る必要があります。
そこで、太陽光パネル専門のメンテナンス業者さんなどに、全てを任せれば良いのでは、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、住宅用太陽光パネルの性質上、日常的な点検を含めたメンテナンスを全てを業者さんに任せると、採算を取るためには高額にならざるえないのが現状です。
一カ所に集中して設置されている産業用の大規模太陽光発電と違い、分散設置されている住宅用太陽光は、規模の割にメンテナンスに手間がかかるため、費用がかさみます。
そのため、メンテナンス業者さんも、住宅太陽光には消極的になる傾向があります。
そこで、ユーザーさん自身で行える簡易な点検はユーザーさんが行い、より専門的な点検のみをンテナンス業者さんが行うなどの、ユーザーさんとメンテナンス業者さんの協力体制による「メンテナンスの仕組み作り」が必要となるのではないでしょうか。
昨年、政府のエネルギー基本計画でも、再生可能エネルギーを主力電源にすることが、決定しました。
住宅用太陽光発電は、再生可能エネルギーの中でも、大きな割合を占めています。
将来、太陽光発電を、主力電源の中心として育てていくためには、メンテナンスの重要性がますます高まってくるでしょう。
蓄電池の赤本でも、蓄電池の経済効果を最大限に高めるためにも、太陽光発電のメンテナンスに役立つ情報を発信していきます。
そして、セールスコピーライターとしての立場から、住宅用太陽光のメンテナンスを手がける優良業者さんの、ご支援もしていきたいと思います。
住宅用太陽光のメンテナンスに役立つ情報を発信する
PV-Netさんとは?
最後に、太陽光発電のメンテナンスに役立つ情報を提供している、NPO法人太陽光発電所ネットワーク(PV-Net)さんをご紹介したいと思います。
NPO法人太陽光発電所ネットワークさん(以下、PV-Net)は、約2500名の住宅用太陽光発電オーナーさんを中心にした市民団体です。
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