蓄電池の赤本の、吉永健之です。
固定買取期間が2019年11月以降、順次終了する太陽光発電の2019年問題の解決策として、蓄電池の設置は、とても有効な手段です。
そこで今回は、蓄電池の設置するために必要な費用(価格・工事費)とスペックの関係について、取り上げたいと思います。
蓄電池にかかる費用は、大きく分けて、蓄電池本体・付属品の費用と工事費用の2つに分かれます。
今回は、蓄電池の設置にかかる費用の全体を見ながら、蓄電池のスペック(性能)と費用の関係を見ていきたいと思います。
目次
蓄電池本体の費用
蓄電池の設置費用のうちでも、最も大きなウエイトを占めるのが、蓄電池本体の価格です。
価格は、主に「容量」によって決まります。
容量
容量とは、kWHで表示される「電力量」で表示され、一度に貯められる電気の量を表しています。
10kWhの蓄電池の場合、1kWの電化製品を10時間使えるだけの電気を貯める能力があります。
そして、容量が大きければ大きいほど、価格は上がります。
蓄電池の価格を比較する場合、容量が全く同じであれば問題ありませんが、多少違いがある場合、比較しずらいですよね。
そこで、蓄電池の費用が他と比べて、高いか安いかを比較する場合の目安として、kWh単価(1kWh当たりの価格)で見るのがおススメです。
太陽光発電で言うところの、kW単価(1kWh当たりの価格)に相当します。
例えば、A社とB社の2つの蓄電池を比較するとします。
・A社の蓄電池 容量:6kWh 価格:120万円
・B社の蓄電池 容量:7kWh 価格:126万円
この場合、容量はさほど変わりはありませんが、どちらが値段的にオトクなのか分かりづらいですよね
そこで、kWh単価を計算すると
・A社の蓄電池のkWh単価=120万円÷6kWh=20万円/kWh
・B社の蓄電池のkWh単価=126万円÷7kWh=18万円/kWh
となり、kWh単価では、B社がA社よりも2万円安くてオトクであることが分かります。
もちろん、蓄電池選びには、kWh単価以外にも考慮するポイントがありますが、全体の相場と比べて高いのか安いのかを判断する上で、とても有効です。
価格を比較すると同時に、どれだけの容量は必要なのかも知る必要があります。
そこで、容量を決める上で目安となるのが、現在までの最大売電量です。
春から夏にかけての、日射量が多い季節で、いままで最も多く売電したときの、売電電力量が、ひとつのめやすとなります。
最も多く売電した日は、発電量が最も多い日であることが多いのですが、最も日射量が多い6月後半の夏至から7月にかけてが、必ずしも最大発電量を記録するとは限らないので、注意が必要です。
というのも、太陽光パネルは、気温が高くなると発電効率が落ちるという特性があるので、日射量があり気温がそれほど高くない5月に、最大発電量を記録する場合が多いようです。
そして、今までの最大売電量の記録から蓄電池を選ぶ時、余剰電力を全て自家消費する場合は、最大売電量より大きい容量の蓄電池を選ぶ必要があります。
実効容量とは?
そこで、今までの最大電力量が5kWhとした場合、5kWh以上の蓄電池を選べば良いかというと、そうではありません。
もう一つ考慮に入れなければならない点があります。
なぜなら、蓄電池の容量全てを使い切ることが出来ないためです。
もし、容量を全て使い切るような使い方を続ければ、蓄電池の寿命が短くなってしまうからです。
蓄電池を寿命(保障年数)以上使うためには、ある程度の容量を残した状態で放電を終了して、再度充電をする必要があります。
この寿命を保つため、残さなければいけない電気の量は、メーカーによって多少違いはありますが、おおよそ20%程です。
となると、実際に使える電気は、容量の80%となります。
5kWhの蓄電池であれば、その80%の4kWhです。
この実際に使える電気は「実効容量」と呼ばれ、多くのメーカーで、カタログ等で表示しています。
蓄電池に、余った電気を無駄にすることなく貯めるためには、この「実効容量」が重要になります。
ですので、今までの最大売電量が5kWhの場合、余った電気を無駄なく貯めるためには、この「実効容量」が5kWh以上の蓄電池を選ぶ必要があります。
出力
容量の次に重要となるのが「出力」です。
出力とは、一度に使える電気の量を示して、kVAの単位で表されます。
kVAという単位は、あまり目にされることはないと思いますが、電気の専門用語で「皮相電力」と言い、「力率」というものが関係してきます。
※皮相電力と力率については、電気の専門分野に踏み込む内容なので、ご興味のある方は、最後の「電気の豆知識」をご覧下さい。
皮相電力「kVA」は、私たちが普段使う電力「kW」とほぼ同じ値ですが、電力は皮相電力よりも少しだけ、少なくなります。
ですので、出力が1.5kVAの蓄電池の場合、一度に使える電気の量は、1.5kWより小さくなります。
では、実際に使える電力はどれくらいかと言うと、「力率」とギリギリまで使うことによる故障のリスクを考慮して、出力の80%程度と見るのが安全でしょう。
1.5kVAの場合は、
1.5kVA×80%=1.2kW=1200W
となります。
出力については、実際に家で一度に使用する電化製品の合計消費電力を、めやすにすると良いでしょう。
蓄電池対応パワーコンディショナーの費用
前回の記事でも取り上げたとおり、現在設置しているパワーコンディショナーが、蓄電池の増設に対応していない場合、交換する必要があります。
蓄電池対応のパワーコンディショナーは、ハイブリット型パワーコンディショナーとも呼ばれています。
昼間の太陽光発電が行われている時間帯は、従来のパワーコンディショナーの持つ、直流を交流に変換する機能に加えて、使い切れない余剰電力を蓄電池の充電用に振り分ける機能が働きます。
そして、夜間など発電が行われていない時間帯は、蓄電池から放電された直流電圧を、交流電圧に変換する機能が働きます。
最近多く発生する大規模停電のニュースでは、「電気は同時同量が原則で、需要と供給のバランスが崩れると停電が発生する」という説明を聞かれた方は多いと思います。
実は「同時同量の原則」は、太陽光発電を設置した「ご家庭内の小さな電力系統」でも成り立ち、その需要と供給のバランスを保つ働きをしているのが、蓄電池対応パワーコンディショナーです。
太陽光発電の発電量が、ご家庭の使用電力量を上回る場合は、余った分を蓄電池に充電することで、需要と供給のバランスを保ちます。
逆に、太陽光発電の発電量が、ご家庭の使用電力量を下回る場合は、足りない電気を、蓄電池か外部の電力系統から供給することで、需要と供給のバランスを保ちます。
この、「ご家庭内の小さな電力系統」における、「需要と供給のバランスを保つ」という重要な役割を果たすのが、蓄電池対応パワーコンディショナーなのです。
DC/DCコンバーターの費用
DC/DCコンバーターは、蓄電池対応のパワーコンディショナーから振り分けられた、余剰電力を変換する機能を持っています。
蓄電池対応のパワーコンディショナーから振り分けられた電力は、太陽光発電で発電された直流です。
しかし、日射量やパネルの温度によって、絶えず電圧が変動し不安定なので、そのままでは蓄電池に充電出来ません。
そこで、DC/DCコンバーターで、不安定な直流電圧を、安定した直流電圧に変換します。
リチウムイオン電池は、とてもデリケートなので、1セル当たりの充電電圧を4.2Vにする必要があります。
この電圧が高くなると、破裂などの事故を起こす恐れがあるので、DC/DCコンバーターは、蓄電池を保護する上でも重要な存在です。
工事費
上記、「蓄電池本体」と「蓄電池対応型パワーコンディショナー」、「DC/DCコンバーター」を設置するためには、それなりに大がかりな工事が必要なので、費用が発生します。
メインとなるのが、電気工事です。
「蓄電池本体」と「蓄電池対応型パワーコンディショナー」、「DC/DCコンバーター」それぞれの間で、電気をやりとりするための電気配線の工事が必要となります。
その他にも、蓄電池本体をはじめ、かなりの重量があるので転倒防止のために、床や壁にしっかりと固定する工事が必要です。
また、蓄電池を室内に設置する場合は、床などに必要とされる強度がない場合は、補強工事が必要となる場合もあります。
まとめ
太陽光発電を設置して余剰電力を売電してきたご家庭が、蓄電池を設置して自家消費するためには、蓄電池本体だけでなく、蓄電池対応型のパワーコンディショナーと、DC/DCコンバーターの購入が必要となります。
これらの、蓄電池本体と付属品は、メーカーがセットで開発して販売している場合が多いようです。
蓄電池本体の性能を最大限に生かすためにも、付属品の連携は重要です。
ですので、付属品は、蓄電池と同じメーカーの対応している商品を選ぶのが、望ましいでしょう。
蓄電池本体と付属品の性能だけでなく、製品を長持ちさせるためには、工事も重要です。
メインとなる電気工事では、漏電や短絡などの電気事故が起きないように、太陽光発電と蓄電池の工事経験が豊富な熟練した業者さんを選ぶことが望ましいでしょう。
今回は、電気の専門分野にまで少し踏み込んで、ご説明しました。
蓄電池を選ぶうえで、電気の基礎知識を理解することは、優良業者さんを見極めるために重要です。
当サイトでは、電気エンジニアとしての経験を生かして、電気の基礎知識を交えながらご説明していきます。。
そして、セールスコピーライターとしての経験を生かして、少し難しい専門的な内容でも、より分かりやすく伝えていきたいと思います。
最後に電気の基礎知識にご興味のある方に向けて、「電気の豆知識」をシリーズでご紹介していきます。
今回は、蓄電池の出力でも出てきました、皮相電力と力率について、取り上げたいと思います。
ご興味のある方は、ぜひご覧下さい。
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電気の豆知識1 皮相電力と力率
「仕事をする電力」と「仕事をしない電力」
本編でも出てきました「皮相電力」を含めて、私たちが「電気のした仕事」を計るために使う「電力」には、3種類があります。
そして、その3種類の電力の関係は「力率」で表わされます。
筆者自身が会社員なので、この3つの電力について、会社に例えながらご説明したいと思います。
1.有効電力
私たちが、普通に電力と呼んでいるもので、電気工学では正式には「有効電力」と言います。
有効電力とは、「仕事をする電力」です。
会社で例えれば、「集中して仕事をしている社員」です。
2.無効電力
有効電力が「仕事をする電力」であるのに対して、無効電力は「仕事をしない電力」です。
会社で例えれば、「仕事をしていない社員」です。
休憩中か、机に向かっていても、集中して仕事をしていない状態と言えます。
無効電力は、電気回路に存在する「コイル」と「コンデンサ」が原因で発生する、交流電力と特有のもので、直流電力には存在しません。
3.皮相電力
蓄電池の出力を表すのに使われる電力で、上記「有効電力」と「無効電力」を合わせたものになります。
計算式で表すと
(皮相電力)²=(有効電力)²+(有効電力)²
と表されます。
数式から分かるとおり、皮相電力と有効電力、無効電力の大きさには、ピタゴラスの定理における、直角三角形の各辺の長さと同じ関係が成り立ちます。
また、
皮相電力=電圧×電流
の関係が成り立ち、計算しやすいことから、出力などを皮相電力(kVA)で表すことが多いようです、
会社に例えれば、仕事の集中度にかかわらず、単純に社員の勤務時間を合計したものと言えるでしょう。
4.力率
皮相電力のうち、有効電力の占める割合を「力率」といい
力率=(有効電力/皮相電力)×100(%)
で表されます。
力率は、会社に例えれば、「社員の仕事への集中度」とも言えるでしょう。
力率が低いということは、電線に電流は流れていても、あまり仕事をしていないことを意味します。
電線には、断面積によって、流すことができる許容電流が決められています。
高額な建設費用を掛けて作られた、電線とそれを支える電柱や鉄塔を、有効活用するためには無効電力を減らして、力率を上げる必要があります。
実は、太陽光発電も無効電力を発生させるため、パワーコンディショナーにも、力率を改善する機能をもったものがあります。
そして、近年の太陽光発電の増加に伴い、電線の使用量が増えており、一部では電線の空き容量がほとんどない地域も、出てきています。
電線の空き容量がなければ、新たに太陽光発電の建設に適した用地があったとしても、系統連携ができないので建設が出来ません。
力率を改善することは、電線の空き容量を増やし、太陽光発電の電気を有効に活用するためにも重要なことなんですね。
電力会社さんでも、力率を改善した場合は、電気料金を安くするなどの優遇措置をとっています。
では、力率を100%にまで上げるのが良いかというと、そうでもないようです。
100%まで上げてしまうと、「あそび」がなくなりかえって不具合が生じてしまうため、80%~95%程度が望ましいようです。
電力も、私たち会社員と同じで、働きづめではダメで、適度な休憩や気晴らしが必要なんですね。